卒業文集、息子ひとりだけ「勇者の物語」だった

息子の小学校の卒業時、卒業文集を作りました。
その中でひとりひとりの作文が掲載されるのですが、「この内容で載せて問題ないか、事前に保護者に確認してもらう」というステップがあるようで、小学6年生の秋ごろ、一度下書きを持って帰ってきました。

一生残るものだから、学校側もそういう配慮をしてくれるんですね。

しわしわの原稿用紙を開いてみると

ランドセルの奥から取り出したしわしわになった原稿用紙を開いてみると、9割くらいのマスがちゃんと埋まっていました

毎日の宿題の日記が1文で終わっている息子にとっては、それだけでもう「よく頑張った!」というレベルです。

作文の内容は、自分をロールプレイングゲームの主人公に例えたものでした。
弱い敵から始まり、どんどん強い敵を倒しながら研鑽を積み、立派な勇者になれるよう頑張ってきた、と書かれていました。

そして、これからも、もっと強い敵と戦わなければならない時がくるだろうけれど、頑張らなければ、と締めくくられていました。

「へえ、面白いね、いいんじゃない」
そう思って、そのままOKサインを出しました。

みんなの文集は「思い出」、息子だけが「勇者の物語」

卒業を迎え、みんなの文集を読んでみると、タイトルはだいたい「6年間の思い出」とか「一番楽しかったこと」といった感じです。

内容もそのタイトル通りでした。
修学旅行が楽しかった、運動会で応援団を頑張った、みんなと一緒に過ごせて幸せだった。
そういう実体験について、詳細な説明や感想がつづられています。

その中で、息子のものだけが明らかに異質でした。

具体的な思い出はひとつも出てこず、ただひたすら「敵を倒しながら成長する」という抽象的な物語。最初は「うちの子だけ浮いてるな」と、正直ちょっと苦笑いしてしまいました。

テーマを知ってから読み返すと

でも後になって、先生から与えられたテーマが「6年間の思い出」だったと知りました。

それがわかってから読み返してみると、見え方がまったく変わりました

息子はきっと、6年間をそのまま「楽しかった思い出」として語れなかったのだと思います。
運動会も、修学旅行も、クラスの人間関係も、彼にとっては素直に「楽しかった」の一言では片付けられないことの連続だったのでしょう。

だから彼は、それを「クエスト」に変換しました。
嫌だったこと、つらかったこと、それでも頑張ったことを、ひとつひとつ「倒すべき敵」として捉え直し、乗り越えてきたものとして書いたのだと気づきました。

直接的には何ひとつ書かれていないのに、行間からは、彼がどれだけ頑張って学校生活を送り、成長しようとしてきたかがちゃんと伝わってきたのです。

一見、みんなとは違う、ちょっと風変わりで面白い内容に見せながら。

勇者は、今日も次のステージへ

思えば、息子にとって小学校の6年間は、本当に「レベル上げ」の連続だったのかもしれません。

友だちとの距離感、先生の指示の受け取り方、行事のたびに求められる「空気を読む」という難易度の高いミッション。
ひとつクリアしたと思ったら、また新しいステージが用意されている。

そんな毎日を、息子は自分なりの表現に変えて、原稿用紙に残したのだと思います。

中学生を経て高校生になった今も、きっと新しい敵と戦い続けているのだと思います。

願わくば、これから出会う敵が、あまり強すぎませんように
そして、たまにはHPが全回復するような、楽しいイベントもありますように。

そんなことを思いながら、たまに勇者の物語を読み返しています。